タマバチとは

タマバチ各種

ハチ目(Hymenoptera)タマバチ上科(Cynipoidea)タマバチ科(Cynipidae)に属し、世界から約1,400種が知られるハチの仲間です。体長は1~6mmほど。色は黒色、茶色、赤褐色、黄褐色などで金属光沢はありません。基本的に成虫は翅をもっていますが、無翅や短翅のものも知られています。植食性で、多くの種は植物に虫えい(虫こぶ、ゴール)をつくります。


分布

主にユーラシア、北アメリカに分布しています。南アメリカや南アフリカの一部の国からも記録されています。なかには、虫えいのついた寄主植物の苗が人によって運ばれることで、本来の生息地以外に分布を拡大した種も知られています。


成虫の特徴

多くの種が全体的に丸みを帯びた体型をしています。頭部には発達した大顎が備わっています。複眼は大きく、頭頂部には3つの単眼が見られます。触角は顔の中央付近から糸状に伸びており、途中で急激に折れ曲がったり、先端が太くこん棒状に変化することはありません。13~15節で、多くの場合、オスはメスより1節多くなっています。

 

 前胸背板は背面で短く、中体節の背面の大部分は中胸盾板と中胸小盾板で覆われています。中胸小盾板の後方には短い後胸背板と前伸腹節が下方に角度をつけて連なっています。

 

 後体節は背面から見ると、左右から圧縮されたようにやや平たくなっています。メスの腹側の尾節は末端が突出しています。オスはメスより後体節が小さく、形状も異なっています。


生態

タマバチ科の多くの種は植物の芽や葉、花や実、枝や茎、根などに卵を産み付け、その部位に様々な形状の虫えいを形成して暮らしています。タマバチによる虫えいは、ブナ科のコナラ属やクリ属、シイ属、マテバシイ属、バラ科のバラ属やキイチゴ属、キク科の多年草、ムクロジ科のカエデ属、マメ科のアカシア属などで見つかっています。虫えいをつくる植物や部位、そして虫えいの形状は、タマバチの種ごとに決まっています。

 

 虫えいには普通出入り口がないため、タマバチの幼虫は虫えい内の栄養価の高い組織のみを食べて成長します。幼虫から成虫へと羽化するまでを虫えいの中で過ごし、大顎で穴を開けて虫えいの外へと脱出します。

 

 オスとメスが出現し両性生殖をおこなうもののほか、メスのみが出現し、単為生殖をおこなうものも知られています。また、ブナ科コナラ属を寄主とする種やカエデ属を寄主とする種では、オスとメスが出現する両性世代とメスのみが出現する世代交番をおこなうことが知られています。

 

 タマバチの中には、自ら虫えいをつくらず、他のタマバチなどが作った虫えいに産卵して、虫えい内に同居するものも存在します。

 


分類

タマバチ科が属するタマバチ上科は、タマバチ科のほかにヒラタタマバチ科(Ibaliidae)、ザイタマバチ科(Liopteridae)、ヤドリタマバチ科(Figitidae)、ゴウシュウタマバチ科(Austrocynipidae)からなり、タマバチ科以外はすべて他の昆虫に捕食寄生する肉食性の寄生バチとして知られています。ゴウシュウタマバチ科以外は、日本から記録されています。

 

 タマバチ科は12の族(tribe)に細分されており、このうち日本からはクサタマバチ族(Aulacideini)1属1種、カオスジイソウロウタマバチ族(Ceroptresini)1属3種、ナラタマバチ族(Cynipini)12属57種、キイチゴタマバチ族(Diastrophini)3属4種、バラタマバチ族(Diplolepidini)2属3種、イソウロウタマバチ族(Synergini)3属19種が記録されています。ただし、これらには分類の再検討を要する種も多く含まれています。また、いまだ数多くの未記載種も存在しています。

 


身近なタマバチ

ナラメリンゴフシとナラメリンゴタマバチ
ナラメリンゴフシとナラメリンゴタマバチ
ナラメカイメンタマフシとナラメカイメンタマバチ
ナラメカイメンタマフシとナラメカイメンタマバチ
クヌギエダイガフシとクヌギエダイガタマバチ
クヌギエダイガフシとクヌギエダイガタマバチ

日本から記録されているタマバチ上科の属とその種数

タマバチ上科 Cynipoidea

ゴウシュウタマバチ科 Austrocynipidae オーストラリアのみに分布

ヒラタタマバチ科 Ibaliidae 材内のキバチ類に寄生

Heteribalia属 1種

Ibalia属 4種

ザイタマバチ科 Liopteridae 材内のコウチュウ類に寄生

Paribalia属 1種

Paramblynotus属 2種

ヤドリタマバチ科 Figitidae 寄生バチ類、ハエ類、アミメカゲロウ類などに寄生

アミメカゲロウヤドリタマバチ亜科 Anacharitinae

Anacharis属 2種

Xyalaspis属 3種

ハナアブヤドリタマバチ亜科 Aspicerinae

Aspicera属 4種

Callaspidia属 1種

Omalaspis属 1種

ヒメタマバチ亜科 Charipinae

アブラタマバチ族 Alloxistini

Alloxysta属 15種

Phaenoglyphis属 6種

ツヤヤドリタマバチ亜科 Eucoilinae

Endecameris属 2種

Eucoila属 1種

Ganaspis属 2種

Gronotoma属 2種

Hexacola属 5種

Kleidotoma属 1種

Leptolamina属 1種

Leptopilina属 8種

Odonteucoila属 2種

Pseudeucoila属 6種

Rhoptromeris属 1種

ヤドリタマバチ亜科 Figitinae

Xyalophora属 1種

タマバチ科 Cynipidae 虫えい形成または他者の虫えいに同居

クサタマバチ族 Aulacideini

Aulacidea属 1種

カオスジイソウロウタマバチ族 Ceroptresini

Ceroptres属 3種

ナラタマバチ族 Cynipini

Andricus属 16種

Aphelonyx属 2種

Biorhiza属 1種

Callirhytis属 3種

Cerroneuroterus属 3種

Cycloneuroterus属 4種

Dryocosmus属 4種

Dryophanta属 4種

Latuspina属 6種

Neuroterus属 9種

Plagiotrochus属 1種

Trichagalma属 2種

キイチゴタマバチ族 Diastrophini

Diastrophus属 1種

Synophromorpha属 1種

Periclistus属 2種

バラタマバチ族 Diplolepidini

Diplolepis属 2種

Liebelia属 1種

イソウロウタマバチ族 Synergini

Saphonecrus属 5種

Synergus属 12種

Ufo属 2種

 

2017年末時点。日本昆虫目録 第9巻膜翅目(第2部 細腰亜目寄生蜂類)(2020年)に基づく。